なぜ歯周病(歯槽膿漏)になるの?
炎症のある歯肉 これは10数年前に、歯の治療が終わったと思い、その後チェックを受けることなく、別に異常も感じないでいた患者さんです。
和歌山では40歳、50歳、60歳、70歳の節目に県庁や、各郡市から検診の案内が来ます。その案内をもってこられた患者さんです。
ご自身では全く気がつかないうちに、歯を支えている骨がなくなって、歯肉に炎症がおこりました。もう少しで歯を失うところでした。
元気な歯肉と病気の歯肉
短期間に、歯ブラシとプロフェッショナルケアで改善された歯肉の状態
骨吸収像(X-ray)
同じ人のレントゲン像です。歯を支えている歯の骨に吸収ガ見られます。また、赤い矢印で示したところの根の表面に、
深いところまで歯石が見られます。(バラの刺のようにがたがたしているのが歯石です)。
右のレントゲンは歯科衛生士が根の表面をきれいに掃除して、先ほどの歯石が見られなくなったところの像です。
黄色矢印で示したところの骨に皮質骨が見られないのですが、掃除をしたあとでは、緑の矢印で示したように、レントゲン像で白い線が見えます。
この白い線が皮質骨で、健康になってきている証拠です。これが歯科衛生士によるプロフェッショナルケアの効果です。
歯周病の進行プロセス
左の図は健康な人 の歯を示しています。真ん中の図は、歯肉(歯茎)に少し炎症があり、
このまま放置するとどんどん深部へ病状が進行するような状態です。右の図は、
歯肉の炎症がどんどん奥へ入り歯を支えている骨までやられている状態を示しています。
このような状態になっても本人は気づいていないことが多く、「自分は歯に関しては自信がある」と言って、歯科に十何年も、
何十年も通っていない人によく見られます。不思議なことに、歯周病にかかっている人の歯はう蝕(虫歯)にかかっていないことが多いのです。
立体的に骨吸収を見る
40歳代の人のあごの部分のCT像です。歯周病(歯槽膿漏)で歯を支える骨まで破壊されています。
根っこがほとんど見えて、骨が支えていないのがよくわかります。このかたは、これほど歯槽骨(歯を支えている骨)がダメージを受けていたのですが、歯科衛生士が一生懸命深いところの歯石を取り、患者さんに歯ブラシの仕方をお話しし、患者さんもこれに答えて努力した結果、現在もこの歯が残って満足に食事をなさっています。しかし、こんなになる前に早く手入れをすると歯が抜けないで、長く自分の歯でかめます。ぜひご自分の歯を大切にして下さい。
私たちの口の中は、500種類以上と言われる微生物(ウィルス、細菌、真菌・カビ、原虫など)がすんでいます。この中には人間にとって善玉もいれば悪玉もいます。悪玉が簡単に体の中に入らないのは、体の防衛力(免疫力、唾液による洗い流し、重層扁平上皮という保護機構など)が働いてこれら外来の敵と戦ってくれています。しかし、歯の周りをいつも汚くしていると、防衛力がおっつかなくて、それに対応するためにいろいろな変化が起こります。歯肉が赤くなっているのは、外来の敵と自分自身の細胞などが戦っている姿です。外来の敵が多くなってくると、さらに深く、特に骨の中に敵が入ると大変なことになるので、自分自身の「破骨細胞」という細胞で自分の骨を壊し、敵が骨の中に入らないようにします。これが歯槽膿漏で、細菌などによって骨が溶かされるのではありません。
このように、口の中の病気は、外来の寄生体(細菌など)と宿主(自分の体)のせめぎあいです。自分の全身状態もよくし、悪玉が寄り付く隙を作らないようにすることが大切です。しかし、いろいろな全身の病気があり、そのために口の中の病気が悪化することがあります。体の状態をできるだけ早く、できるだけよい方向へ向けるように努力しましょう。
歯周病セルフチェック
ご自分の口の状態をチェックしてください。
いずれにしても、健康を守り増進することが、長い人生にとってとても大切なことです。
0点:あなたの歯肉は現在健康です。
今後とも検診を受けて健康の維持に努力してください。
5点~25点:
歯肉の状態は感心しません。早く歯科医院でチェックを受けてください。
26点~49点:
歯肉炎あるいは歯周炎の疑いがあります。至急歯科医院でご自分の口腔状態を確認してもらい、早期に治療を受けてください。
50点以上:歯周病が相当進行しています。至急、
歯科医院で治療をお受けになってください。放置すると歯を残すことが困難になる可能性があります。
歯周病にかかりやすい人
このような人がかかりやすく治りにくい人です
・お口の手入れをきっちりしない
・お砂糖でできたものややわらかく歯につきやすいものを好き
・野菜や繊維性のもので、食べながら自浄作用のある食物をあまり食べない
・歯並びが悪い
・糖尿病がある
・不摂生な生活をする
・ストレスの多い生活をしている
・タバコをすっている
・歯の噛みあわせが悪い
・女性の思春期、妊娠中、更年期
歯垢( Dental Plaque)と歯周病
歯と歯ぐきの間にたまった白いこけ上のもの(緑の矢印)。これがプラーク(DentalPlaque,歯垢などと言われます)です。
細菌を染める色素で染めると右写真のように赤く染まり、細菌のかたまりであることが分かります。
これをためておくと、この部分から歯肉炎が始まり、何年もかけて、歯槽骨(歯を支えている骨)をだめにしていきます。これが歯周病
(歯槽膿漏)です。
歯垢(Dental Plaque)内の細菌
10日ほど歯ブラシをしていない口腔から採取した、Dental Plaqueをグラム染色(細菌を染める方法の一つ)
して光学顕微鏡で見た像です。グラム陽性菌や陰性菌。球菌、短桿菌、大型の桿菌やコーンコブという変わった形のものも見られます。
このように口の中では、約500種類以上とも言われる微生物が生息しています。その中で、悪玉菌も多く見られます。
できるだけ細菌数を減らすことが大切と考えます。
歯周病を予防するには
・生活習慣を規則正しく、食生活も栄養のバランスや、繊維質の多い食物に変え、食事時間もできるだけ規則正しいものにする。
・自分での歯磨きをきっちりすることと同時に歯科医院で、歯科医師や歯科衛生士のプロフェッショナルケアーを定期的に受ける。
・そのとき、検査データなど見せてもらえれば、自分の口の状況を把握できるようにする。
・歯並びはできるだけきれいにそろえる。
・糖尿病などの成人病は早く受診して症状をなくしたり、医師の管理下で健康な生活をする。
・不摂生な生活をしない。
・ストレスのある生活の場合、できるだけ余裕のある時間帯を作り、体をほぐす。
・女性の場合、思春期や妊娠中及び更年期はきっちりと歯科医院でケアーを受ける。
歯周病は治る病気です
・自分では悪くないと思う人も、定期的に検診を受けて、健康な状態を保つようにすることが大切です。また、もし悪くなった場合でも、
早く見つけて治せば重篤な症状にならずに済みます。
・100歳のお年寄りに「楽しみは何ですか?」という質問をすると、51%の人が「食べることです」と答えてダントツの1位です。
歯を大切にすることは、年をとってからの生活がとても快適になります。
・ぜひ、歯を大切にし、ご自分の人生を大切にしてください。